鋭い知性と豊かな情感を併せ持った 『Secrets Are The Best Stories / Kurt Elling (feat. Danilo Perez)』
グラミー「最優秀ジャズ・ボーカル・アルバム賞」 の受賞のヴォーカリスト、カート・エリング。
華麗なスキャットを得意とし、抜群のテクニックを誇る王道実力派。
常に、挑戦し続ける彼は、ブランフォード・ マルサリスやブラッド・ メルドーとの共演もある現状に甘んじない勇者!
今回は、あのウェイン・ショーター・カルテットの現場の司令塔ともいえる、パナマ出身の天才ピアニスト、ダニーロ・ペレスとがっつり四つに組んだ作品。
有名アーティストの少しマイナーな曲を中心に選曲し、歌詞のない曲はエリング自身が作詞を手がけている。
曲によっては、詩人や作家など彼らの思い入れのある人物に捧げられてたりする。
また、人権、移民、気候変動といった重要な問題に対する彼ら強い政治的メッセージもある。
オープナーは、米国の詩人フランツ・ライトの「The Hawk」という詩に触発され、ジャコ・パストリアスの音楽をベースにした「The Fanfold Hawk」、エリングとベースのクラーク・サマーズとの親密なデュオで、始まる。
同じくジャコの曲をベースにし、シームレスで始まる「A Certain Continuum」、ピアノ、パーカッション、ドラム、が加わりスリリングに。甘さを排除したペレツのピアノ!
キューバのパーカンションと3人で進める「Stays」、ウェイン・ショーターの音楽にロバート・ピンスキーの詩を乗せた演奏は、ヴォーカリーズのようにも聴こえてくる。
ペレス作曲、エリング作詞の「Gratitude」は、ロバート・ブライへと書かれている。
イギリスの作曲家、マルチ楽器奏者、ジャンゴ・ベイツの曲は、「Stages I,II,III」とあって、作詞はノルウェーのヴォーカリスト、シゼル・アンデルセン。エリングのクルーナーとしての実力と、ペレスの知的で冷んやりとしたフレージングで、息のあった静寂な世界。
その間に入るのが、アルト奏者の/ ミゲル・ゼノンと、ジョナサン・ブレイクが加わった彼のオリジナル「Beloved」。即興性が高く、各自のレベルの高さを強烈に感じる1曲。
国境の川で溺れて亡くなった移民の親子に捧げられた「Song of The Rio Grande」は、二人の抗議の声。ペレスの多様なリズムで感情が大きく増幅される…
キューバのSSWシルビオ・ロドリの「Rabo de Nube」は、スペイン語?で堂々と。
パーカッションも加わったヴィンス・メンドーサの「Esperanto」、ギタリストのシコ・ピニェイロがフィーチャーされカラフルで鮮やか。
終演は、「Epílogo」と、名付けられた非常に短いペレスの曲をソロ・ピアノで。
スケール感は大きくとも感情を抑えたクールな演奏が余韻を生む…
ペレスは、研究熱心で音楽に真摯に立ち向かう人。祖国パナマの歴史を「仮想映画風」に仕立てた一大スペクタルなCDも出してる、人としても大きな人。
4オクターブの声域を自在に操るエリングが、選んだ相手に間違いなし。
明るさやポップな部分は少ないけれど、2人の鋭い知性と豊かな情感を併せ持った演奏が詰まってます。
現代ジャズの最前線に立つジャズ・ヴォーカリストが真髄発揮でっす。
1.The Fanfold Hawk (for Franz Wright)
2.A Certain Continuum
3.Stays
4.Gratitude (for Robert Bly)
5.Stage I
6.Beloved (for Toni Morrison)
7.Stages II,III
8.Song of The Rio Grande (for Oscar and Valeria Martinez-Ramirez)
9.Rabo de Nube
10.Esperanto
11.Epílogo
Kurt Elling (vo)
Danilo Pérez (p , rhodes)
Clark Sommers (b)
Chico Pinheiro (g)
Miguel Zenón (as) #6
Johnathan Blake (ds) #2,6
Rogério Boccato (perc) #3,4,6,10
Román Díaz (perc) #2
今日のおまけは、ご本人があげていた、ペレスとのデュオの「Stages I」。
どうでしょ?
私的には絶賛なんですが。。
んじゃ、退散♪
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コメント
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Suzuckさま、こんばんわ。Suzuckさんの詳しい曲ごとの解説を読んで、とても参考になりました。
純粋に音楽のみを聴くことも大切かもしれませんが、曲が生まれる背景やエピソードなどの情報を知った上で聴き直すと、また違った印象や解釈も生まれきます。Suzuckさんの言われるように、確かにこの二人の懐の深さというか知性が生み出す、静かなスケール感ともいうべきものを強く感じます。
投稿: zawinul | 2020年4月26日 (日) 17時44分
zawinulさま、私、英語力が全然だめで、、
きちんとエリングの詩の内容がわかれば、、と、凹みました。
ここでの、ペレスは、単なる歌伴という感じではなくて、とても感動的でした。
いつか、二人の演奏を生で聴いてみたいです。
投稿: Suzuck | 2020年4月27日 (月) 11時43分