また、ひとつ扉を開いた 『After Bach / Brad Mehldau』
新譜がでるたびに、話題になる現代ジャズ・ピアニストの最高峰、ブラッド・メルドー。
彼の幅広いカバー曲には定評がありますが、、なんと、今回の題材はバッハ。
そうそう、バロック音楽の重要人物、ヨハン・ゼバスティアン・バッハです。当時、バッハは作曲家としてだけではなく、即興の大家としても名を馳せていたとのことです。むむ、メルドーがバッハにご執心なのはこの辺りも大きく影響してるのでしょうかね。
今回、彼はバッハの「平均律クラヴィーア曲集」から4つの前奏曲(2、4、6、8)とフーガ(8、10)を1つとりあげています。で、各曲の演奏後に、メルドーがその曲にインスパイアされた即興曲を演奏。その組み合わせで10曲、アルバムのプロローグとエピローグがついて全12曲。
オープナーは、「Before Bach: Benediction」、敬虔な空間への誘い。
まずは、「Prelude No. 3 in C# Major from The Well-Tempered Clavier Book I, BWV 848」。もちろん、ここはバッハの楽譜通りにメルドーが弾きます。そのテクニックがクラシックの演奏家を寄せつけないほど超越してるか否かは、私にわかりません。が、右手と左手でテーマ?が繰り返されて行くのが印象的。そして、即興曲「After Bach: Rondo」、前曲のイメージを薄い輪郭で残しながら、よりメルドーらしいダークで美しい世界を繰り広げる。
次曲は「Prelude No. 1 in C Major from The Well-Tempered Clavier Book II, BWV 870」。そして、「After Bach: Pastorale」、メルドーらしい優雅で理知的な世界。
次曲は「Prelude No. 10 in E Minor from The Well-Tempered Clavier Book I, BWV 855」。そして、「After Bach: Flux」、早いテンポで高揚した余韻そのままに、次々に展開される場面。
次曲は「Prelude and Fugue No. 12 in F Minor from The Well-Tempered Clavier Book I, BWV 857」。この第1巻 第12番 ヘ短調 BWV.857だけ、プレリュードとフーガーを連続して弾き、多彩な半音階段をたっぷりと。優美な時間の後は「After Bach: Dream」。ゆったりしたテンポで時間を超越。夢遊病者の夢。
次曲は「Fugue No. 16 in G Minor from The Well-Tempered Clavier Book II, BWV 885 」。そして、「After Bach: Ostinato」。執拗に反復される打音で時空を超えられるGマイナーの世界。哲学者が語る宇宙の命題のようだ。
終演は「Prayer for Healing」。タイトルそのまま静かな祈りの時間。前曲までの緊張感が嘘のような和らぎの時。
恐ろしいことに、交互にくるバッハとメルドーの即興に全く違和感はありません。
メルドーの世界はより深くバッハの世界に潜り込んでいます。いや、逆か??
メルドーは、多分、バッハ風に弾こうとなどは、全く思っていなくて、バッハの曲は楽譜通りでも、どう考えてもメルドーの姿が浮かんできます。そして、その後のメルドーの即興曲がバッハの面影をもちつつメルドーの世界。
すごい人です。いわゆる、スイングジャズとかではありませんが、メルドーファンならそんな世界を誰も期待してないとおもうのですよね。
彼が、また、新しい世界を持ったということです。
1. Before Bach: Benediction
2. Prelude No. 3 in C# Major from The Well-Tempered Clavier Book I, BWV 848
3. After Bach: Rondo
4. Prelude No. 1 in C Major from The Well-Tempered Clavier Book II, BWV 870
5. After Bach: Pastorale
6. Prelude No. 10 in E Minor from The Well-Tempered Clavier Book I, BWV 855
7. After Bach: Flux
8. Prelude and Fugue No. 12 in F Minor from The Well-Tempered Clavier Book I, BWV 857
9. After Bach: Dream
10. Fugue No. 16 in G Minor from The Well-Tempered Clavier Book II, BWV 885
11. After Bach: Ostinato
12. Prayer for Healing
Brad Mehldau (p)
今日のおまけはアルバムのオープナーを飾る「Before Bach: Benediction」。
三寒四温の谷間から。
んじゃ、退散♪
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何の予備知識もなく、平均律ならキース・ジャレットがやっているしなあ、とか、バッハのテーマでアドリブかなあ、と予想していたら、こういう演奏方法があったとは。脱帽というより他はありませんでした。インスパイアされた、即興演奏(だと思う)がかなりの高みに登ってますね。
TBさせていただきます。
投稿: 910 | 2018年3月17日 (土) 09時27分
910さま、今年は本当に次から次へと当たり年ですね。
バッハの曲もとてもメルドーらしくて、クラシックって奥深いなぁ。。と、感じました。
そして、そこからのメルドーの演奏は凄いとしかいえません。
そう、高みに登ってしまってます。
トラバをありがとうございました。
投稿: Suzuck | 2018年3月17日 (土) 09時35分
Suzuckさん、お早うございます。
おっしゃるように、又ブッド・メルドーはひとつの扉を開きましたね。私はなんとジャズへの入り口は50年以上前のジャック・ルーシェの「プレイ・バッハ」でした。その後、ジョン・ルイス、キース・ジャレット、エドワール・フェルレ、セルジュ・デラートなど印象深いですが、今回のブラッド・メルドーは又新たな挑戦と感じとれました。
これは又歴史に残る一枚と確信しています。
私もTBさせて頂きます。
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2018年3月17日 (土) 10時11分
風呂井戸さま、、フレスのコメントにお返事をしてなくてごめんなさい。
彼って、すごい多作家なんですよ。
なので、ちょっと 思いつただけでも、、沢山あって。。
こうやって、連ねていただいた名前をみていると、
バッハがいかに、演奏者の創造力を掻き立てるのか、って、思えます。
メルドー贔屓だし、全部聴いたわけではないので、、なんとも言えないのですが、、
これは、斬新で名盤だと思いました。
投稿: Suzuck | 2018年3月17日 (土) 10時36分
Suzuckさん,こんにちは。TBありがとうございました。
記事にも書きましたが,実はこれを聞く前は私としても不安はあったのですが,まさに杞憂に終わったって感じです。Brad Mehldauの凄いところは,バッハは軽々と弾いてしまうとしても,オリジナルにそこはかとなくバッハを感じさせるところだと思います。まさに「バッハにちなんで」って感じですが,こういうやり方もあるのだなぁと感心させられました。本当に,彼はどこまで行ってしまうんでしょうねぇ。
ということで,こちらからもTBさせて頂きます。
投稿: 中年音楽狂 | 2018年3月18日 (日) 13時10分
閣下、返事が遅くなってすみませんでした。m(_ _)m
不安ですか。。
私は、無知なせいか、、不安はなかったですね。
今度は、トリオだそうですね。
こちらの方が、、不安です。トリオで、何をするんだろう。。って。
常に前に進むことしか残されてないとしたら、なんだか、大変そうで。。。
投稿: Suzuck | 2018年3月22日 (木) 18時34分